熊本の農業

子育ての愛情が生む 天草黒牛の系譜
千原 勝也さん / JAあまくさ管内

2023.11.24

今回はJAあまくさ管内で繁殖農家を営む
千原さんご一家のもとへ。
牧草づくりからブランド牛の元になるまでその熱い想いをうかがいました。

 

《 天 草 黒 牛 》

 天草で生まれ天草で育った黒牛で、年間400頭ほどしか生産されない
希少な黒毛和牛。天草産の飼料を食べて育ちます。

 

畜産農家の業態は大きく分けると2種類

 母牛から子牛を産ませ、10ヶ月育てた子牛の出荷をメインとする繁殖農家と、その子牛をセリで買い、約20ヶ月肉用牛として大きく育てる肥育農家に分かれます。繁殖から肥育まで一貫して行う畜産もあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

牧草のロールは1日2個消費、年間約700個必要

 餌となる牧草の生産も行う千原さん。牛舎周辺や有明方面でWCS(ホールクロップサイレージ)と自家産のイタリアンライグラスなど、牧草を3~4町(3万~4万㎡)育てていて、4月~11月ぐらいは膨大な面積の牧草と藁の収穫作業をこなします。

 

 

 

 

 

 

 

牧草のロールについて

 藁だと1反(1,000㎡)で約2ロールほど、WCS1反で3個ちょっとくらいできます。あまり知られていませんが、実は巻き方や形にかなりの種類があって、質量や重さが変わるんですよ。

 

見守り、育てる。要は子育てと一緒ですよ

 繁殖農家の仕事は、牛の人工授精から始まり、約10ヶ月間の子育てをして子牛を家畜市場に出荷します。「牛の赤ちゃんとはいえ、小さな子どもと同じで、事故やトラブルを未然に防ぐには一緒に牛舎にいる時間がとても大切です。
 要は子育てと一緒ですよ。毎朝餌やりのときが一番体調も分かるし、牛に代わって日々の微細な変化に人間がいち早く気づいてあげないといけません。」手をかけて愛情をかけた分、健康に育っていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牧草へのこだわり、耕畜連携による粗飼料の確保

 耕畜連携の取り組みにより、地域の米農家さんと提携してWCSを栽培してもらい、畜産農家の持つ専用の大型の機械で収穫作業も行います。稲作農家にとっては、国からの補助のほか農地の有効利用・連作障害の回避のメリットがあります。
 また、畜産農家にとっては、牛の嗜好に合った地域の国産飼料の確保、牛ふんなどの堆肥を肥料として供給できるメリットがあります。地域の活性化や資源の循環のためにも重要かつ、持続可能な連携サイクルなのです。

 

 

 

 

 

 

 

血統を生み出すということ

 牛の世界にはちゃんと戸籍があり、子牛の出荷時の名簿には親子3代の情報が掲載されています。父牛と母牛の情報、そして生産者が誰か、メインの餌の種類の記載もあります。牛にも肉質など人気の家系があるため、繁殖農家には人気の血統を生み出すというもうひとつの重要な役割があります。
 「ただ、出荷時に評価が与えられるわけではなく、自分たちが育てる10ヶ月、肥育農家が育てる20ヶ月、その期間を経て肉になるときに、世の中の評価になるわけです。先を見据えて、年単位で先を読む力、そのための血統と子牛の育て方が必要になってきます。」実際には母牛の出産までの期間もあるため、生産したものが評価されるまで膨大な時間とコストがかかるのです。

 

 

 

 

 

 

 

消費拡大と『国消国産』が一番生産者の応援になる

 現在は別の畜産会社に修行に出ている息子さんが跡を継ぐ予定だが、「畜産の現状を言えば今から後継ぎをさせていいのかなと。昨今の資材の高騰やニュースでもあるように、子牛の価格に対してもコストが上昇しているため、息子の代になるまでにしっかり安定させたいと考えています。
 そのためには地元や国産のお肉の消費の拡大、『国消国産』が一番生産者の応援になりますし、地元のお肉を地元の方に食べてもらうこと、それが私たちのやりがいでもありますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

黒毛和牛の豆知識

 日本の黒毛和牛(黒毛和種)の原種は、島根の糸桜系(いとざくらけい)、鳥取の気高系(けだかけい)、兵庫の但馬系(たじまけい)の大きく3つに分けられます。全国に数多くある黒毛和種はこの3つの銘柄をもとに系統がつくられます。
 ブランド牛の種牛のリストがあり、それを近親交配にならないようにうまく積み上げていきます。