熊本の農業

自然の恩恵に感謝を忘れずに
親子3代で受け継ぐ、 阿蘇の大玉トマトづくり
斉藤 孝幸さん / JA阿蘇管内

2025.11.06

 

夏のトマトといえば雄大な阿蘇で育てられる大玉トマト。
水と緑に恵まれ、高冷地ならではの寒暖差を生かしたトマトづくりを
親子3代で営む斉藤さんの農園を訪ねました。

 

トマト栽培に適している阿蘇の「標高」

 「昼夜の温度差や、豊富な地下水に恵まれたこの地域はトマト栽培に向いています。中でも夏秋トマトの栽培に適した1番の条件は、450〜550mあるこの標高です。」熊本市内と比べて年間平均気温が5度ほど違い、夏場でもしっかり寒暖差が確保できるためです。
 また、山間地域でありながら広い田んぼがあるような地形は全国的にも珍しく、トマト栽培に適した産地として発展してきました。

ハウスの長さは約80メートル。1棟あたり植栽本数はおよそ1,000本。
現在は特定技能外国人と外国人技能実習生のスタッフが4名加わり
トマトづくりを行なっています。

 

阿蘇の大玉トマトの1年

 11月に収穫が終わると、冬から春にかけては片付け作業、ハウスのメンテナンス、土作りなどの準備を行います。3月頃から準備に入り、4月に定植、6月から11月まで約半年間の収穫が可能です。その後、九州を中心に、関東、関西、四国へも流通していきます。
 JA阿蘇の中部トマト部会には150戸の農家があり、南部トマト部会と合わせると約200戸で産地が構成されます。

 

親子3代での働き方と、モチベーション設計

 基本理念としては、父の職人としての経験を尊敬しつつ、息子世代の新しい考えを積極的に取り入れる。特に息子が就農してからは、上意下達の師弟関係ではなく、責任は親が取る前提で「好きにやらせる」自律型に移行していきました。変化する時代に合わせて、「農家の息子はこうあるべき」「農業は休めない・儲からない」といった固定観念を捨てて、息子が自由にのびのびと農業に取り組める環境を意識しています。

 また、モチベーションをしっかり維持するためにも、オフシーズンやプライベートを楽しみ、旅行や美味しいもの、欲しいものなどを明確にすること。地域の若手に「楽しみの設計」を伝え、長期的な就業意欲を維持することは、産地としての発展には欠かせません。私自身、現在が人生で最も楽しいですし、充実しています。農家が儲かる背中を見せて、仕事と人生を謳歌している姿こそ次世代が育つ要因だと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トマトづくりの将来

 全国的に夏秋野菜は後継者不足で減少しています。温暖化の影響で北海道でも気温が上がる中、標高のある当地域は寒暖差が維持できるため有利です。市場データでも他産地の作付面積は減少しており、ここで夏野菜を作れば収益が見込める可能性が高いため、若い人がどんどん新規参入やUターンで入ってくることを期待しています。

父が約40年前に始めたトマト栽培。
現在は「りんか」という品種を栽培しています。

 

地域の経済性と社会性の両立と、農業の役割

 「しっかり働き、しっかり納税すること」こそが地域のためになると父が常々話していました。50年前と比べて価値観・環境は大きく変化しています。生業で社会に貢献するには、現代的な考え方での農業経営、特に効率性、自由度、地域連携が求められ、地域構造の課題に対しても、高齢化が進む中、若手の就業・定住が鍵となります。そのためには行政依存ではなく、自律的な経済循環づくりが重要です。地域のコミュニティ活性化への波及効果として、農業が担う役割はとても大きく可能性に溢れていると思います。

雄大な阿蘇山をバックに、JA阿蘇の広報担当、谷口さんと。

 

《JA阿蘇 夏秋トマト》

 大玉で、しっかりとした肉質と、とろけるような食感が特徴で、高糖度でコクがあり、生で食べるのに適しています。九州だけでなく、関東でも人気の高いトマトです。