熊本の農業

夏限定、爽やかな甘みを生み出す「グリーンハウスみかん」進化論
宮野 陽介さん / JA鹿本管内

2025.07.09

夏場のみかんとして知られるグリーンハウスみかんを求めて、
熊本市の北部に位置する田原坂にある宮野さんのハウスを訪ねました。
丘陵地帯にのどかな田園風景が広がるこの地域は、
西南戦争最後の激戦地としても知られています。

 

グリーンハウスみかんの地域の歴史

 約30年前、JA鹿本では、グリーンハウスみかんの開発が始まりました。本来冬場に採れるみかんを、夏場に食べられるようにと改良されたもので、皮は緑のままですが、果肉は完熟させ美しいオレンジ色になります。当時、先進地域であった、唐津や愛知などで先代たちが学び持ち帰ったノウハウを元に栽培が始まりました。

 一般的なレギュラーみかんをベースに、ハウスの温度管理によって収穫サイクルを変えることで、夏の時期の収穫を可能にしています。現在は7、8月のお盆の贈答用などのニーズに合わせてJA鹿本管内では6軒の生産者が栽培を行い、生産量は年間約130トン、地元熊本に加え、東京や大阪へも流通しています。

 

 

 

 

 

 

 

甘さを追求するグリーンハウスみかんの1年

 夏の収穫後、まず剪定を行い、その後、実のできる時期を調整するため「芽止め」を行います。土壌のケアを行いながら、12月からハウスの加温、止めていた芽を出すための作業を行い、年明けから実ができ始めます。2月末からは実の糖度をあげるために1カ月ほど「水切り」をします。この時期に果肉にジュースが入るため、節水によって実に甘さを蓄えさせる細かな水分管理には熟練の技術が求められます。温度や湿度の丁寧な管理がグリーンハウスみかんの糖度と品質を支えているのです。

「蛍尻」と呼ばれるお尻の部分がぽわっと色が変わり出したら収穫の目安です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリーンハウスみかんの未来に向けて

 父が師匠であり学びの原点であるという宮野さん。「就農してから、父に全てを教わりました。はじめは現場でメモを取りながらのスタートでしたね」その後、経験を積みながら、ある程度自分なりの農業の形ができた今も、品種の多い柑橘の木の特性や変わりゆく気候など日々勉強は欠かせません。農家の高齢化や資材高騰という大きな課題に直面しつつも、やはりそれを超えるおいしいみかんを作ること、いずれはSサイズに限らず、大玉でも糖度が高いみかんづくりを追求したいと語ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 

食育活動を通じて食と農の大切さを伝えたい

 宮野さんはJA鹿本の青年部の仲間と食育活動も行っています。地元の小学校3年生向けにスイカの苗の定植や販売体験を、5年生に向けて田植えや稲刈りの体験を運営。「私も子どもが2人いますが、やはりまずは地元の子どもたちに収穫体験を通じて、作物の成り立ちや食べ物への感謝、それから地元の産業を知ってもらうことを大事にしています。農業自体とてもやりがいがあるし、充実感は大きい。子どもたちや、これからの就農希望者にもぜひ伝えていきたいですね」

JA鹿本広報担当の田中さん(右)と。

 

《JA鹿本 グリーンハウスみかん》

 食べた瞬間広がる完熟の甘味と程よい酸味が特徴の夏限定みかん。ギフトとしても人気で、地元スーパーや小売店、百貨店にも並びます。

 

果肉はもちろん、皮まで綺麗なワケ

 ハウスのメリットは、ほぼ全てのみかんがきれいなまま出荷ができること。露地栽培のみかんに比べると害獣に食べられたり、傷んだりというロスが少ないため、収穫後の家庭選果が不要で、そのまま全体の9割以上を出荷することが可能です。

収穫直後はみずみずしく、中の果実はもちろん
皮まで美しく輝いています。

 

世の中のニーズに合わせた食べやすいサイズ

 昔、食卓で見かけることの多かった大きめのみかんに比べて、現在はSサイズ以下のニーズが高く、JA鹿本ではSサイズ中心の出荷に合わせた生産計画がなされています。