熊本の農業

日本伝統の畳を学ぶ 500年受け継がれる八代「い草」文化の真髄
森野 利明さん / JAやつしろ管内

2020.12.25

地場産業として定着し、八代を中心に目覚ましい発展を遂げ、

今日では日本一の生産量を誇る「くまもと畳表」の生産地に。

熊本産のい草のあゆみ

 熊本県における、い業の歴史は古く、約515年前の1505年、八代市千丁町大牟田上土城主、岩崎主馬守忠久公が領内の古閑淵前にい草を栽培させ、特別の保護のもとに奨励されたのが始まりと言われています。その後、幾多の困難を乗り越えながら地場産業として定着し、八代を中心に目覚ましい発展を遂げ、今日では日本一の生産量を誇る「くまもと畳表」の生産地に成長しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本県が奨励している品種は4種あり、それぞれ「涼風」「ひのみどり」「ひのはるか」「夕凪」の名称で知ら
れています。畳が持つ機能として、湿度調整や温度調整、空気清浄などの面で効果が期待できます。

 

い草を作るということ

 い草は通常の農産物の生産よりもう1段階ステージが多く、つくる、収穫する、の後に畳表への「加工」の工程があるのが大きな特徴です。織機も設備も大がかりなものが必要になります。夏から秋にかけて苗床を育て、12月上旬から植付け、翌年の6〜7月に収穫します。
 収穫の時間は、早い農家さんで午前2〜3時に作業を始めて、朝陽の昇る午前6時ごろには刈り終わる。収穫には朝露のついた状態がよく、その日のうちに泥染めを行います。
 泥染めは、い草独特の香り、光沢を出すために天然の染土を用いて行われ、その後乾燥させます。選別されたい草は長さごとに分けられ、織機で一枚一枚丁寧に紡がれ、ムラや細かい仕上げのチェックを経て出荷されていきます。

水田苗床に植えられた苗。
11月下旬には、本田植付け用に根切り、株分けの調整をします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかくこだわってつくる」そこにつきますね。

 一番のポイントはやはり理想の「青み」ですね。それを作り出すのがとても難しいんです。長くて硬ければ良いというわけではないので、艶とか光沢など、追及するものは決して少なくない。やはり常に作り手のベストの状態を生み出すために、一つひとつの手作業に毎回チャレンジしています。商品としては全く問題ない、とてもきれいに見える今の状態でも、個人的には理想の8割くらいです。
 温暖化の問題や自然の環境、市場もどんどん変化していますが、まだまだ追求する事はたくさんあるし、一生かけて完璧に近づけるか、こだわって勝負していきたいですね。

笑顔の絶えないご家族の傍らにはいつも愛犬が。穏やかでおとなしく、みんなに可愛がられる存在です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職人の目利き「ござ打ち」を経て織機へ

 い草を織機に入れる前にも大事な工程があり、これは奥様が行う繊細な作業のひとつ。い草の束を霧吹きで湿らせて馴染ませ、一本一本折れや曲がりを発見していく。弾力と、しなる柔らかさを見極めつつ、織機に入れる長さとバランスを見ていくのだそう。大切に育てられたい草は、織機に入る前に大事な最終選別を人の目で受けていきます。この作業を見ると品質がどう維持、確保されているか、日本の伝統工芸を肌で感じることができます。

 

 

 

 

 

 

仕上げが終わった畳表を30分ほど日光に当て最後の乾燥を行います。

 八代では昔から、道に大きく広げて乾かす光景がどこでも見られたそうですが、今はだいぶ少なくなっているそう。気持ち良く晴れた日は、い草の香りがより爽やかに感じます。

畳表の競りの市場へ

 毎週行われる畳表の競り市では、第三者機関が品質の検査を行い、入札にかけられます。
 全国で90%以上を占める熊本県産の畳表には産地表示のタグがついており、QRコードから生産者さんの情報が見られる取組みが行われています。