熊本の農業

農業には、何事にも代えがたい収穫の喜びがある。それを、次世代の農業従事者の方々に伝えていきたい。
大無田光幸さん/球磨郡球磨村

2018.02.19

渡辺豊さん / 天草市深海町

 古くから人々を育んできた球磨川沿いに位置する球磨郡球磨村。その地で農業を営むのは、就農4年目の大無田光幸さん47歳。両親と奥様、4人の息子に囲まれ賑やかに暮らしている。手がける作物は栗、梨、生しいたけの三種類。山岳地帯で高低差のある土地が多い球磨村は、果樹栽培などに適しており地域でも栽培が盛んだという。その分、移動するだけで足腰に大きな負担がかかるほどの傾斜があるが「もう慣れたですね」と息一つ乱さない実にたくましい大無田さん。「山間から見える球磨村の景色がとてもきれいで、作業中につい見とれてしまう」と、ロマンティストな一面も。このルックスに、この感性、おまけにシャイときた。まったく持ってカッコいいにも程がある。

渡辺豊さん / 天草市深海町
品種:ぼろたん
従来種は渋皮が剥きにくく調理に手間がかかるというのが特徴だが、
このぼろたんは鬼皮と一緒に渋皮が剥けるという画期的な栗。
果実は大きく甘みが強い優等生。

渡辺豊さん / 天草市深海町
斜面もあり、高い位置に実が成る栗の木の管理はかなり手間がかかるが、それを全てて作業で行っている。
渡辺豊さん / 天草市深海町
はにかむ笑顔がとても素敵な大無田さん。とてもアラフィフには見えない精悍な顔立ち。

家を出たけれど、やっぱり生まれ育った球磨村が好きだ。

 大無田さんは高校を卒業後、県外で工業関係の仕事に就いたのち、人吉市内の会社に転職。その後、43歳の時に就農することに。「それまでは両親の手伝いなども頭になかった、出来ればしたくなかったかも」と本音を漏らす。「高齢となった父の姿を見て30代くらいから少しずつ農業を継ぐことを意識し始め、いずれは自分がしないと、という思いはあった」と振り返る。父から青年就農給付金制度についてアドバイスをもらった時、ようやく決心が着いたという。地元に戻った際、静かな土地柄で地域の人々も温かく、「家を出たけれど、やっぱり生まれ育った球磨村が好きだ」と郷土愛を再確認できたと語る。

当たり前の作業を、きちんとやる。それが自分のこだわり。

 「やはり気候が一番の心配の種」と大無田さん。栗や梨園が一番忙しくなる時期は、気温の高い夏場。熱中症の心配や、さらに台風もやってくる。「台風で実が落ちると全て駄目になるんですけど、防ぎようがないから怖い。何より、木が折れると来年以降にも響くのでとても心配」と口にする。そういったリスクに備えつつ、広くて斜面のある果樹園を農薬や除草剤を使わずに手作業で管理しているという。想像するだけで気の遠くなる作業だが、「毎日きちんと管理を行う。当たり前のことをきちんとやる。それが自分なりのこだわり」と、照れながらも自信を覗かせる。「苦しいことがあっても毎日の晩酌でリセットできるしね」と、お酒のパワーは絶大なようだ。

周りを引き寄せていくために、自分たちがお手本にならないといけない。

 最後のビジョンを聞いてみた。「村で作物の品評会があり、昨年は栗が二等賞、梨が一等賞を取ることができた。上手に収穫できた上に、高い評価をもらえると本当に嬉しい」と笑顔。「この評価を維持しつつ工夫も必要。ゼロから色んな作物にチャレンジしていき、自分の可能を広げていきたいな、と。また、球磨村の栗はとてもいいものなので、村全体で連携を取って、農産物を出荷するだけでなく名産品としてPRやブランド化していきたい。あとは、次世代の農業従事者や家族などに対して、自分たちがお手本にならないといけない。活き活きした生活を送れば、それを見て自然と農業に興味を持ってくれる人が増えてくれると思う。この地域に、若い人たちが根付いてくれるといいなって思いますね」。

渡辺豊さん / 天草市深海町