熊本の農業

ハードルを越えていくのが楽しい。リスクって嫌いじゃないし、越えた先に喜びがある。
池田 精一郎さん / 玉名郡和泉町

2017.10.18

 熊本県の北西部、福岡県と県境を成し、野山に囲まれた自然豊かな和水町。「日本マラソンの父」と言われる金栗四三が生まれ育った場所だ。この地で農業を営む池田精一郎さんは、就農5年目の49歳。両親と奥様と共に代々続く家業を守り続けている。手掛ける作物は、みかん、たけのこ、お米、そして“ナス”。「年間の生産サイクルを考えた上で、自分が就農してから新たにナスを取り入れた」と導入の経緯を語る。品種は「黒船」。名前の通りツヤのある黒色をしており、筑陽よりひとまわり大きく、料理の幅が広く使い勝手がいいのが特長だ。「綺麗なナスができ、いいナス出してるねって言われるとやっぱり嬉しい。それでまたハードルが上がるけど、それを越えていくのが楽しい。リスクって嫌いじゃないし、越えた先に喜びがある」とストイックな一面を見せる。

山鹿神輿の会長を務め、お祭りで神輿を担いでいるだけあり、ワイルドでたくましい池田さん。キラキラと輝く笑顔が印象的な奥様の寿美代さん。

病気の父親のきつそうな姿を見て「継ごうか?」と言ったら、「よかや」って

 池田さんが就農したのはつい5年前。地元を飛び出し、サラリーマンとして働いたのち、JAに14年間勤めた。その後、父親の病気をきっかけに家業を継ぐことに。「心の中ではずっと腹は決まっていた」と就農することへの迷いはなかったという。とは言え45歳からの就農。「やっぱり多少の不安はあった。でも幸いにも結婚が早く、子どもたちがみんな大きくて独り立ちしていたので挑戦することができた」と当時を振り返る。就農してからというもの、自然相手の仕事はやはり困難の連続だった。「とにかく天候がすべて、枯らしたら終わり。不安定な天気が多くまったく気が抜けない」と大変さを口にする。

就農してよかったと心から思えるし、今は本当に笑って仕事ができている

 大変なことが多いからこそ、作物が綺麗な状態で出荷できるときの感動は計り知れないという。「嫁入り前の親じゃないけど、そんな心境。逆に、枯れて弱っている姿を見ると『俺が下手でごめんね』って。切り落とすときたまらない気持ちになる」。日々、真摯な気持ちで作物と向き合い、惜しみない愛情を注ぎ続けているからこそ出てくる言葉なのだろう。「いろんな難しさや大変さはある。でも自分がやった分が返ってくる面白さが農業にはある」と池田さん。「家族が一緒で何でも言い合えて、人間関係に疲れることがなく、時間的にも自由度が高い。趣味も好きにでき、やった分だけ収入も見込める。仕事の幅も広げていけるし、とても可能性のある職業だと思う。就農してよかったと心から思えるし、今は本当に笑って仕事ができている」と農業の魅力を語る。

家族がみんな笑えれば、それが一番

 最後にビジョンを聞いてみた。「ナスを導入したときから、師匠に教えてもらいながらやってきた。これからはそうやって人と人との連携が大切になってくる。若手などにも、自分が考えたことや聞いたこと、培ってきた技術などを惜しみなく伝えて情報交換し、みんなで盛り上げていきたい。せっかく就農したのであれば、誰も辞めてほしくないし、もっと農業の魅力をアピールしていきたいと思う。そして、何よりも家族みんなが笑えれば、それが一番だと思う」。

品種:黒船 玉名地方が産地で、促成栽培、露地栽培、ハウス栽培に適する夏秋収穫用の長ナス。筑陽(肥後のでこなす)に似ており、耐暑、耐湿性があり草勢が強く、草姿は半開帳性で主枝、側枝が太い。果実の長さは25cm前後が標準。